「美華」(BIKA)には、仙草ゼリーというデザートがあった。
「おいしいという人はいつも召し上がるんですけど、苦いというか、薬くさいという方もいて」と、店の人が言い淀む。「クセがあるってことですか?」「そうですねえ。シロップがかかってるので、苦いということもないんですが。わたしはおいしいんですけど。なにか、胃薬の味を思い出すという方もいて、太田胃散じゃなくて、なんだったか…、とにかくそう思うとやはり気になるようで」。
興味深い。お客さまが注文した。わたしは杏仁豆腐に逃げた。
「おいしいんだけど」と、お客さまが首をかしげる。「薬の味…? わかんないなあ」
ひとくち、味見させてもらった。かすかな、この味は。
「太田胃散じゃない。その逆。…食べる前に飲む、やつ」
思い出せない。うー。気になる。検索。
「大正漢方胃腸薬だ!」
「それです、それ!」と店員さんが同意する。あーすっきりした。確かに、ちょっとだけ似た味がする。でもそんなに気にならない。おいしい。
「鉄の胃でさあ、胃薬って飲んだことないから、わかんないんだよねえ。そんな味するかなあ」。
お客さまが悩んでいる様子をよそに、なにやら正解したような心持ちになる。でもよく考えなくても、胃薬の味なんてわかんない方がいいに決まってる。